香りの現場① ― 喫酒 幾星・織田浩彰さんと生まれた、バニラとパッションの一杯
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グラスに鼻を近づけると、南国のパッションフルーツが弾け、そのすぐ奥から、バニラの甘い余韻がふわりと立ちのぼる。京都・祇園の薬草酒バー「喫酒 幾星」の織田浩彰さんと一緒に、京都バニラビーンズの樽熟バニラ(ウイスキー樽熟成)を使った、ひと夏のためのカクテルが生まれました。
「飲む香水」をつくる人、織田浩彰さん
「喫酒 幾星」は、祇園・白川のほとりにたたずむ薬草酒のバー。店主の織田浩彰さんは、二十代でハーブリキュール(薬草酒)の奥深さに魅せられ、ヨーロッパ各地を巡って製法を学びながら、世界中の一本一本を集めてきました。その数、600本以上。比叡山の山麓には自身の私設薬草園を持ち、そこで摘んだ生のハーブや生薬を、季節ごとにカクテルへと仕立てていきます。

織田さんが手がけるのは、植物の香りをそのままグラスに閉じ込めた「飲む香水」。フルーツを使うカクテルには液体窒素を用い、氷で薄めることなく果実本来の甘さと香りだけをすくい取る。蒸留器で香気を何十倍にも濃縮した「ハーブウォーター」を、バーとしていち早く採り入れたのも織田さんでした。2022年には、京都・五条にノンアルコール・スピリッツ専門の蒸溜所「幾星 京都蒸溜室(IXEY)」も開いています。
きっかけは、あるノンアルの一杯
はじまりは、京都バニラビーンズが入居する施設「BBB HOUSE」のオープニングイベントでした。京都バニラビーンズのバニラを蒸留し、織田さんがノンアルコール・スピリッツとして出してくださったところ、これが大好評。「これ、どこで飲めるんですか?」という声が多くありました。
その香りをもっと多くの人に届けたい――そこで、織田さんに「このバニラで、何かカクテルを作れませんか?」とご相談したのが、今回の始まりでした。
香りのプロフェッショナルである織田さんに樽熟バニラを託し、どのような着想でカクテルに仕立てられたのかお聞きしました。

ポーンスターマティーニへのオマージュ
Qどのような着想から、この一杯が生まれたのですか?
「パッションフルーツもバニラも、いま京都バニラビーンズさんが栽培に取り組まれていると聞いて、同じ土壌で生まれる、いわば“近いテロワール”の素材同士を掛け合わせたら面白いなと感じました。また、パッションフルーツを使った『ポーンスターマティーニ』という、海外でも人気の一杯がある。そこから着想を得ました。」
ポーンスターマティーニは、ロンドン生まれで、バニラの香るウォッカとパッションフルーツを合わせた、いまや世界中で愛される定番カクテルです。その華やかさを下敷きに、今回は京都バニラビーンズならではの一杯へと仕立てていただきました。
鍵になったのは、樽熟バニラの「ウイスキー樽熟成」。ウイスキーの空き樽で追熟させたバニラは、甘いだけでなく、香ばしく芳醇な余韻を持ちます。この香りが、パッションの華やかさと驚くほど響き合いました。

他のバニラと、何が違うのか
京都バニラビーンズの樽熟バニラは、一般的なバニラと何が違うのか。織田さんが挙げたのは、その香りの「複雑さ」と「強さ」でした。ウイスキーの空き樽や木の樽で追熟させることで、木やウイスキーの薫香を色濃くまとう――その個性の強さこそが、他にはない魅力であり、同時に一杯へ仕立てる難しさでもありました。
Q他のバニラと、何が違いますか?
「香りが複雑で、強く感じます。木やウイスキーの薫香を強くまとっているので、種をあえて出さず、ベルモットに漬け込むことで、香りを纏うように表現しようと考えました。」
バニラビーンズの種を掻き出してしまえばバニラの香りは強く出ます。けれど織田さんは、あえて鞘のままベルモットに漬け込む道を選びました。そうすることで強い薫香を押し出すのではなく、やわらかくまとわせる。この一手間が、のちに語られるバニラの役割の話へとつながっていきます。
パッションの爽やかさと、バニラの甘さがひとつに
ひと口飲むと、まずパッションフルーツの爽やかな酸味が広がり、追いかけるようにバニラの甘い香りがまとまっていく。甘さと酸が別々ではなく、ひとつの味わいとして溶け合っていて、心地よい香りを感じながらゆっくり飲みたい、なのに気づけばするすると飲んでしまいます。
織田さんいわく、このカクテルにおけるバニラの役割は「ドレス」。パッションの華やかな香りを、やわらかく包み、まとわせる。
甘く華やかな香りはどこか南国を感じ、その余韻がずっと続くようなカクテルでした。
この夏、喫酒 幾星で
このパッションフルーツとバニラのカクテルや、バニラを漬け込んだベルモットは、これからの夏の季節、京都・祇園の「喫酒 幾星」で提供予定とのこと。京都バニラビーンズの樽熟バニラが、織田さんの手でどんな一杯になっているのか。ぜひ、味わってみてください。

